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☆ ☆ ☆ 記録の中では李純が何故、神獣としての覚醒を求めているのか、その理由を老人に説明していた。 町を襲う悪意と対決するためだと真意を明かす李純。 不審な死の連続。 少年少女に限られた怪死事件。 死に見舞われた家は、遺骸を人目に晒さないようにして弔っているが、仲の良い友人が亡くなった李純は、最期の別れをしようと友人の家に忍び込んだ。 そこで李純が見たものは生気を吸い取られたように干からびた遺骸だった。 そして首筋には何かに噛みつかれたような傷があった。 李純の言葉に目を妖しく光らせる老人だったが、それは悪質な疫病ではないかと李純に告げる。 「私も随分と長く生きてきた。 その間には色んなことがあった。 とても不思議で人間には解明できないような怪異もあった。 しかし殆どのことは後になってみれば、人の道理の範疇で収まることばかりだったよ、純」 殊更に平静を装って李純を宥めようとする老人だったが、李純は反駁する。 「亡くなった友達は前日までとても元気に遊んでいました。 それが僅か一日の内にあんな無惨な亡くなり方をするとは私には信じられません」 子供たちは殺されたのだと断言する李純。 その犯人も見当は付いているという。 李純の住む町に赴任してきた、農業指導の役人が怪しいと言い立てる。 「亡くなった子供たちの殆どが、非番の役人と親しく話したり、一緒に歩いたりしていました」 「たったそれだけの理由でその役人を疑うというのか」 「両親もそう言いました。でもあの王偉という役人は普通じゃありません。 まるで魔物に憑かれたような目をしています。」 「お前が親しい友人を失って、悲しんでいるのはわかる。 だがな、そういうときだからこそお前は冷静であるべきだ。 仮にお前の友人の死が、誰かによってもたらされたものだとしたなら、その罪を裁くのは人の法でなければならん。 何故ならばおまえたちは人なのだから。 当地で李家といえばそれなりの格式を持った家として知られている。 その家の娘が通報すれば、捜査当局も動いてくれるのではないかな」 「お祖父様、それは無理です。王偉はこの地に赴任してきた直後から、警察に取り入ってます。 今じゃ署長とは友人づきあいをしています。 …それに、警察官の様子もこの頃おかしいのです。 どこか王偉に似てきたような」 更にここ数週間通信網が途絶している上に、地震による山崩れで塞がった道路の復旧も遅れていて、中央と連絡する手段も無い現状を老人に説明する李純。 「つまり、この地は陸の孤島というわけだな」 「はいっ。 そしてここ十日間だけでも馬家、曹家、張家、朱家で弔いが執り行われました。」 涙声で自らの町に訪れた災厄を訴える李純。 「待て。 不幸のあった家の名をもう一度繰り返すのだ。 おまえの知っている限り、全部」 李純の挙げた家の名を聞くにつれ、老人の顔が曇っていく。 「なんと、どの家も神獣の血が色濃く伝わっている家ではないか」 暫しの熟考の後、気が付いたように李純に告げる。 「もう日が落ちかかってるぞ、家にお帰り。 もしも今度不審な死があったら必ず私に知らせなさい。 私も少し思案してみる」 重い足取りで家に帰ってきた李純。 気持ちは落ち込んだままだったが、別れ際の祖父の言葉に僅かな燭光を見出そうとしている。 「李姐、お帰り。 何処へ行ってたの」 無邪気な声を聞き、李純の顔に明るさが射す。 「銭琳」 李純の家の近所に住む年下の少女、銭琳だった。 二人は少し年は離れているが、姉妹のように仲が良かった。 「クカカカカカ」 李純の貌が固まる。 銭琳の家から一人の男が出てきた。 農業指導の為にこの地に赴任してきた王偉だった。 「クカカカカ」 王偉のどこか滑稽で不気味な笑い声が夕闇迫る町に響く。 ★ ★ ★ 「この記録は『呪われた町』のパスティーシュですね」 カメノフ氏の持ち込んだ記録から感じられた違和感の正体がようやく判ったので、口にした。 「『呪われた町』? それは何ですか」 カメノフ氏が頑健極まりない首を傾げている。 「『呪われた町』はホラー小説の古典的な名作の一つです。 作者はスティーブン・キング、英語の原題は確か“ Salem s Lot”」 「おう、そちら方面には疎いものでして。 その小説はそんなにメジャーなものですか」 「私も詳しい訳じゃありませんが、自分達の故郷を蹂躙する吸血鬼に立ち向かっていく主人公を描いた長編です。 ま、長編とは言ってもキングの作品の中じゃ、比較的読みやすいボリュームなんですがね」 おぼろげな記憶を頼りに言葉を紡ぎだす。 「パスティーシュとはどのような点なのでしょうか」 「獣化能力者の苦悩を描いた話や吸血鬼と戦うような話は他にもたくさん存在します。 ただ私がこの『immortality』と題された文章を『呪われた町』の模倣だと判断したのは、話の構成にあります」 「ほう、構成と言いますとどのような」 「『呪われた町』では冒頭で主人公の男性が、かつて吸血鬼の災厄に見舞われた自分たちの故郷で、吸血鬼の復活を知る場面から始まります。 そのことを知って脅えるもう一人の生き残りの少年。 二人は復活した吸血鬼と戦う決意をします。 そして教会に行き神の加護を得るため聖水を授かります。 そして過去の回想場面に移るという構成が酷似しています。 おそらく、『immortality』の作者はホラー小説のファンであり、リゾナン史にも興味を持っていた。 自分の好きなジャンルを融合させた創作が『immortality』という二次創作だったわけです」 記録の中では事態が急速に進行していた。 ☆ ☆ ☆ 家に戻った李純は王偉への不信感を家族に訴えるが、取り合っては貰えない。 翌朝、また子供の犠牲者が出たことを知らされた李純は、前日王偉と一緒にいた銭琳ではないかと思ったが違っていた。 しかし次は銭琳が危ないと考えた李純は改めて祖父に相談しようと、家族の制止を振り切って洞窟に向かう。 祖父が隠棲している横穴に辿り着いた李純は、飴のように折れ曲がった鉄格子を目にする。 中に祖父の姿はなかった。 祖父を拘束していた鎖を固定していた岩肌は崩落し、僅かばかりの什器は破壊しつくされている。 祖父の安否を気遣った李純は、持参してきた灯で地面を照らす。 泥で汚れた足跡のようなものが残されていたが、どの程度の大きさのものか判別できないぐらいに踏み荒らされている。 洞窟の奥に気配を感じ、歩を進める李純。 「お祖父様、何処にいらっしゃるのです」 祖父への呼びかけは岩肌に吸い込まれていく。 何かの気配は段々と強くなっていく。 それは気配を通り過ぎて、何かの息遣い、臭気、唸り声として李純の五感に訴える。 逃げ出したくなる気持ちを必死で抑え、歩みを止めない。 洞窟の行き止まりらしきところに辿り着いた。 そこには確かに何かがいる。 恐る恐る灯を向けると、そこには捜していた人がいた。 祖父は襤褸切れのようになった衣服を申し訳程度に身につけていた。 手足を拘束していた鎖は消えていた。 露出している肌は赤黒く染まっている。 「お祖父様!!」 悲鳴を挙げて駆け寄る李純。 傷の手当てをしようと老人の痩せた体を抱きしめる。 老人の息遣いは激しかったが、それでもしっかりとしていた。 肌は血で染まっていたが、流れ出ている様子は無い。 見られないように背けていた顔に、灯を当てると老人の口元が血で濡れていた。 「一体、何があったのです。 お体に怪我はないのですか」 「…違うのだ、純」 消え入りそうな声を搾り出す老人。 「違うとは、何が違うのです」 「私の体には怪我は無い。…ただ」 「ただ?」 「完全な獣化が起こってしまった。 ここ数年無かったことが起きてしまった」 小一時間後、李純は老人と瓦礫の山となった横穴の中で対峙していた。 半裸の状態だった老人には、瓦礫に埋もれていた衣服を探し出した。 「西洋に伝わる伝説の人狼のように、月が満ちる度に身体の奥底から湧き出てくる獣化への衝動。 理性の力でここ数年は抑えられてきた。 このまま何十年か何百年後、あるいは何千年後にこの身体が朽ち果てるまで、人として生きていける、そう思っていたのだが」 「私が悪いのです。 あのようなことをお祖父様の耳に入れたりして」 泣きながら詫びる李純を優しく見つめる老人。 その様子は最前とは違って、穏やかな孫を思う祖父の姿そのものだった。 「純や、お前は正しい。 お前が私の世話をするために、この棲家を訪れるようになって一年ぐらいのものだろう。 決して長い時間ではないが、それでもお前という人間を知るには十分だ。 お前には物事の本質を洞察する力が備わっている。 お前は物事の本質を熟考によって導き出すのではなく、本能的な反応によって導き出している。 私は昨晩お前が帰ってから、血の騒ぐに任せて、この洞窟を飛び出した。 山野で獣を駆り立てる為にな」 老人の口元が血塗られていたことを思い出す李純。 「さぞや浅ましいと思っているのであろうな、わしのことを」 「いえ、そのようなことは。 お祖父さまはこのようにとても優しい方です」 李純の言葉に老人は僅かに頬を緩めた。 「哀れな贄を追い求めて山野を駆けていた私は、この地を禍々しい邪気が覆い尽くそうとしていることに気づいた。」 「お祖父さま、その邪気とは」 「おそらく、お前が話していた王偉という男と関係があるのだろうな」 老人の言葉を耳にすると李純は小さく頷いた。 「王偉は一体何の目的で、この町の人たち、それも子供ばかりを狙うのでしょう」 「この地に集いし神獣の末裔の者達の血を取り込むことで、神獣の力を独占できると思っているのであろうな」 「神獣の力?」 「ああ、そうだ。 神獣としてまだ目覚めていない子供でも神獣の力はその奥底に秘めているだろう。 神獣として覚醒した者を襲うよりも、安全にその力を手にすることは出来ると考えたのだろうな」 「何て卑劣な」 「そして、その思惑は正しかったようだ。 昨夜、わしが感じた邪気の強さ、あれを発しているのが人だとしたら、もう既に魔に取り込まれているだろう。 おそらく、人の手であれを倒すことは不可能だ。 それが叶うとしたら神獣のみ」 「お祖父さま」 「純よ、わしは決めた。 王偉という男はわしが倒す。 それがわしに与えられた使命だろう」 「わたしも手伝います」 「勿論それはお前の力なしには不可能だ。 もっともお前に神獣として目覚て奴と戦えとは言わん。 わし以降の一族の覚醒は東欧で出会った魔女へケートとの契約で封印してしまい不可能なのだから。 そんな生身の人間であるお前にはかえって危険な役目かもしれないが、手伝ってくれるかな?」 「勿論です。 私の生まれ育った町を汚し、同胞の命を奪った悪しき存在を倒すためならどんなことでもします」 「ならば、策を授けよう」 老人は他に聞く者がいないのにもかかわらず、李純の耳元に口を寄せて何事かを囁いた。 独占欲(1)へ戻る
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前へ 「もう…や…」 「……やめてほしいなら」 達したばかりの荒い息で懇願する遼子に、ただ一つの解放条件を提示する。 「絶対に離れないと言ってくれ。俺のそばにいると約束するんだ。」 「ダメ……なの…。お願い、わかって…鷹藤君……、いやっ……ぁああっ!!」 その言葉を聞くなり、鷹藤はすぐさま腰を打ち始め、その言動を戒める。 遼子の口から発せられた「別れる」という言葉を撤回するまで許さない。 思うままに何度も貫き、遼子を乱し、深い快楽で服従を強要する。 身体を揺すられながら、遼子は泣いていた。涙が頬を伝う。 「わ、私……だって、本当は……!」 しかし、その先の言葉は続かなかった。 漏れる苦しげな吐息と共に、遼子の身体が再び震え出す。二度目の限界が近いのだ。 鷹藤は容赦することなく絶頂寸前まで追い込むと、遼子の耳元で逃げ道を囁いた。 「俺はなんと言おうとアンタを離すつもりは無い。」 「あ、あぁっ……!だ、め……な…の…」 交渉の決裂と同時に最奥まで貫き、乱暴に腰を押し回す。 痛烈な絶頂に抗い切れず、上げられた悲鳴。 鷹藤は暫らくの間何も考えずにただ腰を打ち、その声を聞いていた。 「……どうして。」 「……ごめん、なさい……」 遼子は息を切らしながら、涙を湛えた瞳で鷹藤を見つめる。 欲しいのはそんな言葉ではない。 「謝るくらいなら……!」 三度目の狂おしいほどの絶頂を与えるべく、身体を反らして喘ぐ彼女を抱き竦め、 遠慮のない抽送を続けた。 「いやぁ!お願い、やめ……、はぁっ、あぁ……!」 何を言おうとも耳を貸さない。聞き入れるのは、鷹藤の求める答えのみ。 遼子の声に煽られ、鷹藤も徐々に昂りを覚えていた。 取り乱したように泣き喚く遼子を取り押さえ、一心不乱に犯す。 やがて限界に達すると同時に、遼子は鷹藤をもその境地へと引き摺り込んだ。 「も、もう、やっ……!あ、ぁあああっ!!」 苦しげな叫びと共に放たれる欲望を、全て彼女の中へと注ぎ込む。 虚ろな瞳を鷹藤に向けながら、遼子は震えた声で悲鳴を上げた。 「もう……いいでしょ……?」 「……もう…いい…だって?」 吐精直後にも拘わらず、再び支配欲に火が灯った瞬間、自然に腰が動き出した。 「い、いやっ……!!」 瞬く間に増大する快楽に、遼子は再び悲痛な訴えを繰り返す。 どれほど責め苦を与えても折れる気配を見せない遼子の様子を見て、 鷹藤の心を蝕む焦りと苛立ちは、最早限界に近かった。 「遼子……、俺と一緒に……」 「鷹藤…君!…だめ……、お願い、わかっ……」 「ダメだ!!」 彼女の涙ながらの訴えを遮る、怒りを交えた命令。 堰を切ったように、鷹藤は遼子を猛然と嬲り始めた。 何度も名を呼びながら許しを乞う遼子を更に叫ばせ、彼女が最も乱れるただ一点のみを 腰を押さえて執拗に突く。 遼子は半狂乱に泣き狂い、鷹藤の手により戒められた身体を涙を零して暴れさせた。 「いやああぁっ!鷹藤くんッ!いやぁっ……ぁぁあああっ!!」 身体中を蝕む快楽に、咽び泣きながら苦しむ遼子を無我夢中で突き立てる。 涙を流して果てる度、照準を外さず一際激しく突き上げ、擦り上げ、掻き乱した。 ただ一度だけで良かった。鷹藤の言葉に一度でも頷いてくれさえすれば。 それなのに、遼子の意思は変わらない。 それで鷹藤は思い知らされる。 遼子は否定しているが、あの男が係わっているのは間違いない。 家族を奪ったあの男に、また今度は遼子まで奪われるなんてまっぴらだ。 渡さない、渡さない。 遼子が欲しい。堪らなく愛おしい。 乱れ、悶える姿を見れば見るほど彼女の決意の固さと共に、自分の心の底を思い知る。 どれほど全力を以って彼女を犯しても飽き足りない。 あらゆる角度から突き立てては掻き回し、彼女の身体を無理に捩らせ、前から後ろから何度も貫く。 最早彼女の声は鷹藤には届いていなかった。彼女を求める心のままに、終わりの見えない陵辱を 時間を忘れてただひたすら繰り返した。 欲望に従い、何度精を放ったかわからない。 身体を襲う気だるさから、鷹藤は遼子から自身を引き抜いた。 涙に濡れた頬に触れ、気を失った遼子を労うように唇を重ねるも、心は満たされない。 遼子は結局、最後まで鷹藤の要求を呑むことはなかった。 「絶対に、離さないからな…」 いつ居なくなるとも知れないこの腕の中のぬくもりを決して手離すまいと、 鷹藤は遼子の体を強く抱き締め、そっと目を閉じた。 大したダークでもなく、ただヤッてるだけですみません。 何で別れを遼子が決意したのかのきっかけもなくすみません。 きっかけエピソードも考えていたんですが、その前にこちらが出来てしまったw (ダーク史朗ちゃんにヤラれたエピがきっかけでもOKかなー?と他力本願な事も考えておりますww←作者様、勝手にごめんなさい。) うわっ!GJすぎる!!!!ダーク鷹藤!期待以上ですよ~! 素晴らしい! しかも、こんなにも早く投下してくれて嬉しい! エロい上に狂暴、禍々しい熱に追い立てられる鷹藤いい! ダーク史郎エピと絡んだとしたら、こんなに光栄なことはないですw 遼子と鷹藤が別れることを心から望んでいる兄は喜びそうだが、 別れる前にこんなにやりまくられたら腹立てるだろうなあww きゃ~~~、鷹遼ダークが投下されてる~~~! GJ!!です! もう一気に読んじゃいました!(//▽//) 「名無しの権兵衛」事件ではダークサイドに堕ちなかった鷹藤だけど そんな彼の中にもある「闇」が見られて新鮮でした。 きっと遼子は、ダーク史郎ちゃん事件の後、 兄に鷹藤君との別れについて、上手いこと 言いくるめられちゃったんでしょうね。
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「カーメイ氏の研究の盲点ですって?」 今、私は日当たりのいい喫茶店の窓際の席に座っている。 目の前には亀井絵里研究家を自称するエリリンコ・カメノフ氏が、2メートル近い巨躯を木製の瀟洒な椅子に押し込んでいる。 カメノフ氏のグローブと見紛わんばかりの大きな手には、亀井絵里研究家にとって必携の史料、『かなしみ文書』のコピーが携えられている。 「盲点と表現するのは適切ではなかったかもしれませんね。」 カメノフ氏はトマトジュースで喉を潤すと言葉を続けた。 「カーメイ氏の業績は非の打ちどころがありません。 世界中の亀井絵里研究家は彼のことを尊敬しています、勿論私も」 コマンドサンボの黒帯だという目の前の巨漢の言葉を、私は素直に受け取ることが出来なかった。 亀井絵里の、そしてリゾナン史研究の巨人であるカーメイ氏への対抗心、あるいは気負いが感じられるのだが。 私はリゾナン史関連の書籍を発行する出版社で編集に携わっている。 この仕事に就いていると、リゾナン史上の新発見を書籍として出版したいという売り込みに遭うことも珍しくない。 今私の目の前にいるカメノフ氏もそんな一人だ。 「以前、カーメイ氏があなたの社から出版された本を読ませていただいた限りでは、カーメイ氏は意識的に隠されていたようです。」 エリノフ氏がそう言って大きな茶封筒から取り出したのは、カーメイ氏が私の社から出版した『かなしみをゆく』だった。 「この本の後半で、カーメイ氏はこう語っておられますね。 かなしみ文書は当時の単位で1レス分以内で物語を収束させているために、本筋に関係ない状況が綺麗に削ぎ落とされている、と」 「ええ、最大で32行以内に収められているその簡潔さが後世の研究家泣かせだと嘆いておられてますよね」 「こう考えることは出来ないでしょうか。 32行以内に収められているから、詳細な記述に欠ける部分があるのではない。 詳細な記述を行いたくなかったから、敢えて32行以内に収めたのだ、と」 「何ですって」 私は無意識のうちに大声を出していた。 「それは一体どういう意味なんですか」 「私はこう考えています。 かなしみ文書には、意識的に隠されている要素が存在する。 それは“血”です。」 カメノフ氏はそう言うと真っ赤なトマトジュースを飲み干した。 「しかし、唐突にそんなことを仰られても、すぐには信用しかねます。 何かあなたの推論を実証する材料が存在しなければ」 「勿論こうしてあなたにお時間を割いて頂いた以上用意してきています」 カメノフ氏はA4サイズの用紙のファイルを取り出した。 紙面には細かい文字が踊っている。 先頭には何やら警告文が記載されている。 ☆ ☆ ☆ 【警告】 この先の文章には、読み手を不快にさせる要素が含まれています。 ホラー映画なんて規制されて当然だという倫理観の持ち主は、閲覧を回避されることを推奨します。 『immortality』 横浜の中華街、一軒の中華料理屋に息を切らせて駆け込む一人の少女がいた。 彼女の手には中国語の新聞が握りしめられている。 駆け込んできた少女は厨房に駆け込むと、そこで具材の下拵えをしていた年上の女性の名を叫ぶ。 「李姐、李姐」 李姐と呼びかけられた女性、李純は駆け込んできた少女をたしなめる。 「銭琳、外から帰ってきて厨房に入ってくるときは、ちゃんと手を洗ってからにしろと…」 ただならない様子の銭琳を見て、李純の言葉が途切れる。 銭琳は李純に握りしめてきた新聞を差し出した。 そこには「無人の町を跋扈する死者の大群?」という文字が踊っている。 「遂に来たか」と呟く李純。 震え出す銭琳。 李純はそんな銭琳を抱きしめる。 「恐れるな銭琳。 来るべき時がやって来ただけだ。 そうこれが私たちの運命だ」 ★ ★ ★ 頭痛がしてきた私は文字の羅列から目を離すと、原因を持ち込んだ元凶であるカメノフ氏に疑問を投げかけた。 「私はかなしみ文書についての検証を記録したものを期待していました。 ですが、あなたの持参されたこの文章は小説のように思えるのですが」 「それはかなしみ文書の原本が著述されたと推定される年代とほぼ同時期に、web上で発表された記録です」 「ほうっ」 誠意のこもっていない相槌を打ちながら、私は失望しきっていた。 web上に流布されていた記録だと。 どうやら目の前の大男は、駆け出しのリゾナン史研究者がはまってしまう落とし穴にまんまと落ち込んでしまったようだ。 どうやってカメノフとの無駄な時間を切り上げようかと頭を捻っていると、続きを読むように促された。 しょうがない、もう20分ぐらいはお義理で付き合うとしようか。 記録と称する小説まがいの雑文は、二人の少女李純と銭琳が怪事件の一報を知った時点から、10年前に遡っていた。 舞台は中国の辺境部の小さな町らしい。 人家から離れた山の洞窟に、1人の少女が食物と衣類の入った籠を手に訪れる場面から始まっている。 ☆ ☆ ☆ 洞窟を奥に進むと人間の手で掘られたのだろうか。 幾つかの横穴があった。 横穴の入り口には太い鉄格子が填められている。 少女はその横穴の一つで暮らしているらしい人間に食物と衣服の替えを持ってきたらしい。 その人間とは老人だった。 老人は小柄で温厚そうに見えた。 いかにも好好爺という感じだ。 老人の手と足は長い鎖で岩肌に拘束されている。 鎖の長さは横穴の中で老人が動ける程度に確保されている。 鎖は頑丈な金具で岩肌に固定されているが、強い力が加えられたのか岩肌にひびが入り、金具も歪みかけている。 老人はそのことを少女に告げ、新しい穴に移る準備を進めるよう家人に伝えるように告げる。 少女は鉄格子越しに食物を置き、洗濯の為に持って帰る衣服を籠に詰め込むが、その表情は暗い。 老人はその様子を訝しく思うが、口にはしない。 やがて少女は口を開く。 「お祖父様。 私は覚醒したいのです。お祖父さまのように神獣として」 老人は驚いた様子で少女の顔を見つめる。 ★ ★ ★ 『神獣』という言葉とその使われ方に違和感を覚えた私はカメノフ氏に尋ねた。 「神獣というのは一体?」 「この先を読み進めて頂ければ、おわかりになると思いますが、その記録の中では人でありながら、獣の姿に変化する者のことを神獣と称しています」 「いわゆる獣化能力者のことですね。 ということは老人の孫である少女が李純ということになるんでしょうか」 小説と呼ぶには拙すぎるその記録を読み進める気の無い私は、カメノフ氏の口から情報を聞き出そうとしたが、当のカメノフ氏は笑って先を読むように勧めるばかり。 いい気なものである。 抗議の意を込めて、わざとらしく大きなため息をつくと、用紙に目を落とした。 ☆ ☆ ☆ 洞窟の外は日が傾きだしていた。 鉄格子の中で老人と李純が並んで座っている。 老人は優しい声で李純を諭す。 「いいかい、純。お前に“覚醒”は起こりえない。 何故なら私は200年前ばかり前に東欧を訪れたことがある。 そこで出会った魔女へケートと契約を交わし、我が血族の“覚醒”を封印したからだ。 残念ながら既に覚醒してしまった私は、人に災厄を及ぼすことを防ぐために、こうして人里はなれた洞窟に住んでいる。 だがな、純。 "獣”として目覚めていないお前は違う。 普通の子として育ち、普通の娘として男と結ばれ、普通の母として子を生し、普通の人としてその生を全うする。 それが私がお前に望むこと。 それは神獣として不死の運命を背負った私には叶わぬこと」 ★ ★ ★ 「ちょっと待って下さい」 今度こそは目の前の大男との不毛な時間を終わらせるつもりで、語気を荒げて言った。 「カメノフさん。 あなたが持参してこられた文書ですが、リゾナン史の新発見とは到底認めがたい内容です」 「それはどのような点を差してのご指摘なのでしょうか」 「この文書の中で神獣として覚醒した老人は、山中の洞窟に軟禁状態になっています。 まるで怪物のように。 神の獣と呼ばれながらこのような扱いを受けているのは明らかに矛盾しています。 したがってこの記録は捏造されたものだと私は考えます」 「果たしてそう言い切れるでしょうか」 カメノフ氏は穏やかな表情を崩すことがなかった。 「想像してみて下さい。 あなたは科学の発達していない時代の人間です。 そしてあなたには老いた父母と愛すべき妻、守らなくてはならないお子さんがいます。 もしもそんなあなたの身の回りに獣化能力者が存在したとすれば。」 一気に話した所為で喉が乾いたのか、空のグラスをかざしてトマトジュースのお代わりを催促する。 ウェイトレスが跳ねるようにやって来て空のグラスをトレイに載せていった。 「因習と迷信が支配的な世界で、あなたは自分の隣人として、獣化能力者を受け入れられますか?」 唐突な質問だった。 勿論受け入れられると答えようとしたが、カメノフ氏の真摯な視線は私にそんなお座なりな解答をすることをためらわせた。 口ごもる私を見て、カメノフ氏は言った。 「残念ながら市井に暮らす人々の大多数は、獣化能力者を恐れるでしょう。 そして彼らを排斥しようとさえするでしょう。 しかし獣化能力者の力の前に適わないならば、彼らを神と崇め自分たちに災いが及ばないようにするでしょう」 「それはあなたの思い込みにすぎないでしょう」 カメノフ氏の言葉に承伏しかねた私は、やんわりと反論した。 「確かにこの記録が書かれた年代は、現在と比べれば科学は発達していなかったかもしれません。 しかしその代わりに神と人との距離も現在より近かった筈です。 神獣は人々に畏敬の念を持たれていたのではないのでしょうか」 「その記録の中で神獣である老人は、人々に災いを及ぼさぬよう、半ば自分の意志で拘束されていますが」 「カメノフさん、どうやらお互いの論旨がすれ違っているようですね。 あなたはどこからか発掘してきたその記録が真実だという前提の基に、前時代の獣化能力者たちが偏見に晒されてきたと仰られる。 一方の私はその記録自体が、当時の人間の想像の産物だという認識を持っている。」 今度こそは迷宮に入り込んだ感のあるカメノフとの会話から抜け出せると思ったが。 「おう、そうでしたね。 私も自分の見解に固執し過ぎた感はありましたね。 まずはその記録の信憑性の検証、これが先決ですよね」 やれやれだ。 とりあえずこの雑文が真実の記録と呼びがたい箇所を発見すれば、解放されるってことか。 それとも一通り目を通した上で、個人では判断しかねるので、社に持ち帰って検証するとでも言って誤魔化すか。 そうしよう。 独占欲(2)へ進む
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北沢志保「名前と嫉妬と独占欲」 執筆開始日時 2018/07/11 元スレURL http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1531316270/ 概要 百合 地の文あり タイトルは志保だけど視点は七尾百合子 それでも良ければお付き合いください タグ ^七尾百合子 ^北沢志保 ^最上静香 まとめサイト あやめ2nd えすえすゲー速報 ポチッとSS!! SSまとめ SSでレッツゴー SS宝庫~みんなの暇つぶし~ SSびより SS 森きのこ! SS★STATION SS2chLog wiki内他頁検索用 ミリオンライブ 七尾百合子 恋愛 百合
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466+1 :名無したちの午後 (JP 0Hff-9R59) [↓] :2020/07/24(金) 06 29 45.75 ID husBiSKSH [H] 少女ドミナンス 独占欲が強すぎる愛娘 NG無、男すら出てこないけど ENDのひとつに娘が産んだ子供を更に孕ませるっていう独占欲が強すぎるっていうサブタイが回収されてない
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少女ドミナンス -独占欲の強すぎる愛娘 玲奈- ttp //monoceros-plus.jp/2nd.html 処女 明石 玲奈 非処女 明石 莉奈 明石 実奈 備考 出血差分あり 莉奈と実奈は玲奈と主人公との間にできた娘で話の流れ的に初めてを奪ったのは主人公だろうが、登場する4Pシーンでは主人公と既に関係済みで孕まされている状態で破瓜シーンの回想も無いのでこの分類。
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・・・『嫉妬』と言う感情が、有機生命体には存在している。 そのように情報統合思念体に教わった。 私には、その感情が理解できない。というよりも、経験したことがないのでわからない。 私には縁のないもの。そう、思っていた―・・・。 『有希、用事があって今日のお昼一緒に食べれないや。ごめんね』 ハルヒに伝えられたのは、3時間目の休み時間。 私とハルヒは毎日昼食を共にする。しかし、用事があるのなら仕方ない。 『わかった。』 そう告げると、始業5分前の予鈴がなった。 ―・・・そして、4時間目終了のチャイムがなり、昼食の時間。 通常ならハルヒと共に昼食を食べているところ。 私はとりあえず、手を洗おうと廊下に出た。そのときだった。 ハルヒが、朝比奈みくるに抱きついていた。 …よくわからない感情が、身体の中をぐるぐる回る。 もやもやして、胸の奥を締め付ける。 『あ、有希・・・』 ハルヒが私を見つけ、こちらに向かってくる。 だが私は、なぜだかわからないがハルヒに背を向けてしまった。 本当になぜだかわからない。エラーが発生した。 ハルヒも追ってこない。私の中の『感情』というものにバグが発生したのかもしれない。 ―・・・その日の部室には、私とハルヒの2人だけだった。 静かな部屋に本のページをめくる音が響いていた。 しかし、彼女の言葉で沈黙はやぶられることになった。 『ねぇ、有希・・・どうしたの?』 『どうもしない』 私自身にもわからないのだから、どうもしないと答えた。 『どうもしない、じゃないわよ。なんだかいつもと様子が違うじゃない。』 『…』 私は何も答えずに、本に目を落とした。 『有希!話してるときは本を読まないのっ!』 そう言われ、本を閉じる。 『有希がおかしくなったのは昼休みよね?何があったの?』 昼休み・・・私は廊下で朝比奈みくるに抱きついているハルヒを見た。 そのときから私の様子が違うのだと言う。 『廊下で…朝比奈みくるに抱きついているあなたを見た。 あなたは、昼休みに用事があって昼食を共に出来ないと私に言った。』 『・・・へっ?』 『なのにあなたは朝比奈みくると行動を共にしていた。 私の様子がおかしいのだとしたら、それはきっとその時から。』 ハルヒの顔が紅潮してゆく。そして、私を抱きしめる。 『なぁに、有希・・・ヤキモチなの?』 『・・・ヤキモチ?』 ヤキモチとは、嫉妬のことだと、ハルヒが教えてくれた。 『ごめんね有希。今日はみくるちゃんの新しい衣装の採寸してたのよ』 『それにしても、有希がヤキモチ妬いてくれるなんて』 ハルヒは嬉しそうに笑った。 『ホントごめん・・・』 彼女の言葉を遮って、私はハルヒの唇に自分のそれを重ねた。 ハルヒの唇が離れる前に、無理矢理口をこじ開けて舌をねじ込む。 『んぅ・・・ちょ、有希っ!?』 ハルヒは私から離れ、顔を真っ赤にさせている。 『もう、ビックリするじゃない。』 ハルヒの言葉に返事はしなかった。そして、私は彼女の首に吸い付いた。 『ひゃっ!?』 私が彼女の首から唇を離した時、吸い付いたところは赤くなっていた。 俗に言う、キスマーク。 彼女は私のものという印。 『な、なにするのよ!!制服きても隠れないところにつけちゃって・・・!!』 顔を真っ赤にしながらまくしたてる彼女に向かって私はこう言った。 『あなたは私だけのもの。他の人には絶対に渡さない。』 これでもかと言うくらいに顔を赤らめる彼女に、また口付けをする。 嫉妬とは、相手をとても想っているということだと、理解した。 ハルヒは、私だけのもの。世界で一番、大切な人。
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☆ ☆ ☆ 記録の中では李純が何故、神獣としての覚醒を求めているのか、その理由を老人に説明していた。 町を襲う悪意と対決するためだと真意を明かす李純。 不審な死の連続。 少年少女に限られた怪死事件。 死に見舞われた家は、遺骸を人目に晒さないようにして弔っているが、仲の良い友人が亡くなった李純は、最期の別れをしようと友人の家に忍び込んだ。 そこで李純が見たものは生気を吸い取られたように干からびた遺骸だった。 そして首筋には何かに噛みつかれたような傷があった。 李純の言葉に目を妖しく光らせる老人だったが、それは悪質な疫病ではないかと李純に告げる。 「私も随分と長く生きてきた。 その間には色んなことがあった。 とても不思議で人間には解明できないような怪異もあった。 しかし殆どのことは後になってみれば、人の道理の範疇で収まることばかりだったよ、純」 殊更に平静を装って李純を宥めようとする老人だったが、李純は反駁する。 「亡くなった友達は前日までとても元気に遊んでいました。 それが僅か一日の内にあんな無惨な亡くなり方をするとは私には信じられません」 子供たちは殺されたのだと断言する李純。 その犯人も見当は付いているという。 李純の住む町に赴任してきた、農業指導の役人が怪しいと言い立てる。 「亡くなった子供たちの殆どが、非番の役人と親しく話したり、一緒に歩いたりしていました」 「たったそれだけの理由でその役人を疑うというのか」 「両親もそう言いました。でもあの王偉という役人は普通じゃありません。 まるで魔物に憑かれたような目をしています。」 「お前が親しい友人を失って、悲しんでいるのはわかる。 だがな、そういうときだからこそお前は冷静であるべきだ。 仮にお前の友人の死が、誰かによってもたらされたものだとしたなら、その罪を裁くのは人の法でなければならん。 何故ならばおまえたちは人なのだから。 当地で李家といえばそれなりの格式を持った家として知られている。 その家の娘が通報すれば、捜査当局も動いてくれるのではないかな」 「お祖父様、それは無理です。王偉はこの地に赴任してきた直後から、警察に取り入ってます。 今じゃ署長とは友人づきあいをしています。 …それに、警察官の様子もこの頃おかしいのです。 どこか王偉に似てきたような」 更にここ数週間通信網が途絶している上に、地震による山崩れで塞がった道路の復旧も遅れていて、中央と連絡する手段も無い現状を老人に説明する李純。 「つまり、この地は陸の孤島というわけだな」 「はいっ。 そしてここ十日間だけでも馬家、曹家、張家、朱家で弔いが執り行われました。」 涙声で自らの町に訪れた災厄を訴える李純。 「待て。 不幸のあった家の名をもう一度繰り返すのだ。 おまえの知っている限り、全部」 李純の挙げた家の名を聞くにつれ、老人の顔が曇っていく。 「なんと、どの家も神獣の血が色濃く伝わっている家ではないか」 暫しの熟考の後、気が付いたように李純に告げる。 「もう日が落ちかかってるぞ、家にお帰り。 もしも今度不審な死があったら必ず私に知らせなさい。 私も少し思案してみる」 重い足取りで家に帰ってきた李純。 気持ちは落ち込んだままだったが、別れ際の祖父の言葉に僅かな燭光を見出そうとしている。 「李姐、お帰り。 何処へ行ってたの」 無邪気な声を聞き、李純の顔に明るさが射す。 「銭琳」 李純の家の近所に住む年下の少女、銭琳だった。 二人は少し年は離れているが、姉妹のように仲が良かった。 「クカカカカカ」 李純の貌が固まる。 銭琳の家から一人の男が出てきた。 農業指導の為にこの地に赴任してきた王偉だった。 「クカカカカ」 王偉のどこか滑稽で不気味な笑い声が夕闇迫る町に響く。 「この記録は『呪われた町』のパスティーシュですね」 カメノフ氏の持ち込んだ記録から感じられた違和感の正体がようやく判ったので、口にした。 「『呪われた町』? それは何ですか」 カメノフ氏が頑健極まりない首を傾げている。 「『呪われた町』はホラー小説の古典的な名作の一つです。 作者はスティーブン・キング、英語の原題は確か“ Salem s Lot”」 「おう、そちら方面には疎いものでして。 その小説はそんなにメジャーなものですか」 「私も詳しい訳じゃありませんが、自分達の故郷を蹂躙する吸血鬼に立ち向かっていく主人公を描いた長編です。 ま、長編とは言ってもキングの作品の中じゃ、比較的読みやすいボリュームなんですがね」 おぼろげな記憶を頼りに言葉を紡ぎだす。 「パスティーシュとはどのような点なのでしょうか」 「獣化能力者の苦悩を描いた話や吸血鬼と戦うような話は他にもたくさん存在します。 ただ私がこの『immortality』と題された文章を『呪われた町』の模倣だと判断したのは、話の構成にあります」 「ほう、構成と言いますとどのような」 「『呪われた町』では冒頭で主人公の男性が、かつて吸血鬼の災厄に見舞われた自分たちの故郷で、吸血鬼の復活を知る場面から始まります。 そのことを知って脅えるもう一人の生き残りの少年。 二人は復活した吸血鬼と戦う決意をします。 そして教会に行き神の加護を得るため聖水を授かります。 そして過去の回想場面に移るという構成が酷似しています。 おそらく、『immortality』の作者はホラー小説のファンであり、リゾナン史にも興味を持っていた。 自分の好きなジャンルを融合させた創作が『immortality』という二次創作だったわけです」 記録の中では事態が急速に進行していた。 ☆ ☆ ☆ 家に戻った李純は王偉への不信感を家族に訴えるが、取り合っては貰えない。 翌朝、また子供の犠牲者が出たことを知らされた李純は、前日王偉と一緒にいた銭琳ではないかと思ったが違っていた。 しかし次は銭琳が危ないと考えた李純は改めて祖父に相談しようと、家族の制止を振り切って洞窟に向かう。 祖父が隠棲している横穴に辿り着いた李純は、飴のように折れ曲がった鉄格子を目にする。 中に祖父の姿はなかった。 祖父を拘束していた鎖を固定していた岩肌は崩落し、僅かばかりの什器は破壊しつくされている。 祖父の安否を気遣った李純は、持参してきた灯で地面を照らす。 泥で汚れた足跡のようなものが残されていたが、どの程度の大きさのものか判別できないぐらいに踏み荒らされている。 洞窟の奥に気配を感じ、歩を進める李純。 「お祖父様、何処にいらっしゃるのです」 祖父への呼びかけは岩肌に吸い込まれていく。 何かの気配は段々と強くなっていく。 それは気配を通り過ぎて、何かの息遣い、臭気、唸り声として李純の五感に訴える。 逃げ出したくなる気持ちを必死で抑え、歩みを止めない。 洞窟の行き止まりらしきところに辿り着いた。 そこには確かに何かがいる。 恐る恐る灯を向けると、そこには捜していた人がいた。 祖父は襤褸切れのようになった衣服を申し訳程度に身につけていた。 手足を拘束していた鎖は消えていた。 露出している肌は赤黒く染まっている。 「お祖父様!!」 悲鳴を挙げて駆け寄る李純。 傷の手当てをしようと老人の痩せた体を抱きしめる。 老人の息遣いは激しかったが、それでもしっかりとしていた。 肌は血で染まっていたが、流れ出ている様子は無い。 見られないように背けていた顔に、灯を当てると老人の口元が血で濡れていた。 「一体、何があったのです。 お体に怪我はないのですか」 「…違うのだ、純」 消え入りそうな声を搾り出す老人。 「違うとは、何が違うのです」 「私の体には怪我は無い。…ただ」 「ただ?」 「完全な獣化が起こってしまった。 ここ数年無かったことが起きてしまった」 小一時間後、李純は老人と瓦礫の山となった横穴の中で対峙していた。 半裸の状態だった老人には、瓦礫に埋もれていた衣服を探し出した。 「西洋に伝わる伝説の人狼のように、月が満ちる度に身体の奥底から湧き出てくる獣化への衝動。 理性の力でここ数年は抑えられてきた。 このまま何十年か何百年後、あるいは何千年後にこの身体が朽ち果てるまで、人として生きていける、そう思っていたのだが」 「私が悪いのです。 あのようなことをお祖父様の耳に入れたりして」 泣きながら詫びる李純を優しく見つめる老人。 その様子は最前とは違って、穏やかな孫を思う祖父の姿そのものだった。 「純や、お前は正しい。 お前が私の世話をするために、この棲家を訪れるようになって一年ぐらいのものだろう。 決して長い時間ではないが、それでもお前という人間を知るには十分だ。 お前には物事の本質を洞察する力が備わっている。 お前は物事の本質を熟考によって導き出すのではなく、本能的な反応によって導き出している。 私は昨晩お前が帰ってから、血の騒ぐに任せて、この洞窟を飛び出した。 山野で獣を駆り立てる為にな」 老人の口元が血塗られていたことを思い出す李純。 「さぞや浅ましいと思っているのであろうな、わしのことを」 「いえ、そのようなことは。 お祖父さまはこのようにとても優しい方です」 李純の言葉に老人は僅かに頬を緩めた。 「哀れな贄を追い求めて山野を駆けていた私は、この地を禍々しい邪気が覆い尽くそうとしていることに気づいた。」 「お祖父さま、その邪気とは」 「おそらく、お前が話していた王偉という男と関係があるのだろうな」 老人の言葉を耳にすると李純は小さく頷いた。 「王偉は一体何の目的で、この町の人たち、それも子供ばかりを狙うのでしょう」 「この地に集いし神獣の末裔の者達の血を取り込むことで、神獣の力を独占できると思っているのであろうな」 「神獣の力?」 「ああ、そうだ。 神獣としてまだ目覚めていない子供でも神獣の力はその奥底に秘めているだろう。 神獣として覚醒した者を襲うよりも、安全にその力を手にすることは出来ると考えたのだろうな」 「何て卑劣な」 「そして、その思惑は正しかったようだ。 昨夜、わしが感じた邪気の強さ、あれを発しているのが人だとしたら、もう既に魔に取り込まれているだろう。 おそらく、人の手であれを倒すことは不可能だ。 それが叶うとしたら神獣のみ」 「お祖父さま」 「純よ、わしは決めた。 王偉という男はわしが倒す。 それがわしに与えられた使命だろう」 「わたしも手伝います」 「勿論それはお前の力なしには不可能だ。 もっともお前に神獣として目覚て奴と戦えとは言わん。 わし以降の一族の覚醒は東欧で出会った魔女へケートとの契約で封印してしまい不可能なのだから。 そんな生身の人間であるお前にはかえって危険な役目かもしれないが、手伝ってくれるかな?」 「勿論です。 私の生まれ育った町を汚し、同胞の命を奪った悪しき存在を倒すためならどんなことでもします」 「ならば、策を授けよう」 老人は他に聞く者がいないのにもかかわらず、李純の耳元に口を寄せて何事かを囁いた。
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花咲くまにまに の攻略対象。 とある理由で万玉屋の女形としているが、れっきとした男。 花魁と肩を並べて万珠屋を仕切っており、その独特の存在感と美貌で 遊郭にも関わらず女性客からの人気が大半を占めている。 用心深くやや潔癖症な所があるため近寄り難い雰囲気だが、 実はマイペースで子供っぽい部分もあり独占欲が強い。 名前 白玖 (はく) 年齢 身長 体重 誕生日 血液型 声優 櫻井孝宏 該当属性 女装、着物、紺髪 該当属性2(ネタバレ) 『』 該当属性(重大なネタバレ) 『史実キャラ(桂小五郎)』
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――― ――― 「ふあ……」 いつもの朝。 時刻は……あれ? 「八……時?」 ―――【いつも通り】が、崩れてく。 ――― 「はあ、はあ、はあ……」 間に合った……。 高速で準備し、神速で駅へ行き、音速で電車に乗り、光速で学校まで駆けた。 教室前に着いた。 ……本鈴、三分前。 危なかったー、マジで。 ドアに手をかけ――― 「あ、男」 後ろから、かがみの声がした。 振り返る。 「よ、かがみ。おはよう」 「今来たの? あんたにしては随分遅いわね」 「ああ……寝坊しちまって」 こんなん、こっちに来てから一度も無かったのに。 「へえ、珍しいこともあるのね」 「……あ、そだ、つかさは? 何か変化あったか?」 「ううん。至って普通よ。……心配しすぎなのかも」 「そか」 それは、なによりだ。 「あ、それと、つかさにちゃんと謝っときなさいね。今日も二人で早起きしたんだから。つかさ、落ち込んでたわよ」 「あー……そうだな。ってか、それならかがみにも、だろ」 「ああ、私はいいのよ。私の意思でつかさに着いているだけだし、明日からは私は行かないしね」 「そうなのか? どした、急に」 「今朝ね、電車の中で、明日からは私一人で早起きして行くから大丈夫、って言ってたのよ」 「へー……っと、チャイムもう鳴るな。入ろうぜ」 ガララ、とドアを引き、中に促す。 「ん、そうね」 そして俺達は、教室に入っていった。 ――― 一限目が終了した。黒井先生が教室を出ていく……寝癖、激しいな。 「よ! 男ー、今朝はどうしたんだよ?」 ぼーっとしてると、友人、友こと……何だっけ? 「ああ、珍しく寝坊しちゃってさ。 昨日ちょっと考えながら寝たからかもな」 「ほほう、悩みごとかい少年。どれ、話してみ?」 「誰だよお前……。 個人的な悩みだ。それに解決した臭いし、相談なんざ必要ねえよ」 「そうか……でも、何かあったら言ってくれよ! 俺はお前の友だからな!」 「……ああ」 ――― 昼休み。 今日は弁当が作れなかったので、学食行くか……。 「あり? 男、どこ行くんだ?」 席を立つと、友が話しかけてきた。 「学食だよ。今日は弁当作る時間が無かったからな」 「おっ、じゃあ俺もー」 「ん、じゃあ行くか―――と?」 お腹の辺りにドスッという衝撃。 後ろを向いて話しながら歩いていたから誰かとぶつかってしまったようだ。 「あ、悪い……あれ、つかさ?」 俺とぶつかった相手は、柊つかさ。俺の彼女だった。 「どうした? つかさ」 「男くん、一緒にお昼ご飯食べよ?」 「え、ああ……でも、今日弁当作れなくってさ。学食行こうかと」 「それなら大丈夫だよっ、私、男くんの分も作ってきたの!」 「え、あ、そうなのか。じゃあ、」 「うんっ、こっち来てっ」 「うわっ、引っ張るなつかさ! 友、すまん、そう言うことだ!」 「へーへーごゆっくりー」 俺はつかさに袖を捕まれ引っ張られていた。 行き先は、解らない。 ――― 「図書室?」 つかさに引き摺られて来た場所は、図書室だった。 この時期は外が寒いので、結構ここにも生徒がいた。 「うんっ」 「教室じゃねえの?」 「うん、今日から二人で食べよ?」 「あ、ああ、別に、いいけど」 「じゃあ、ほらっ」 更に袖を引かれ、手頃な席に誘導される。 ……比較的人が寄らない端の席。死角にもなっている、静かな席だ。 「ふう……あ、つかさ」 「なあに?」 「今朝は悪かった。珍しく寝坊しちゃってさ」 「うん、お姉ちゃんから聞いたよ」 「そ、そうか」 「それでね、男くん。明日から朝に男くんの家に迎えに行ってもいいかな?」 「え? べ、別にいいけど……」 「じゃあ朝の六時位でいいかな?」 「もっと遅くてもいいよ」 何時もより登校が遅くても、暇な時間が増えるだけだ。つかさも早起きは辛いだろうし。 「ううん、六時でいいよ。私、男くんに合わせたいから」 「そう、か」 何か、今日のつかさは。 「それじゃ、これ、お弁当!」 そう言って差し出されたのは、大小二つの包み。 「おお、開けても良いか?」 「うんっ」 包みを解いて、蓋を開ける……おおう。 「凄いな……」 彩られた多種多様なおかずの数々はどれも美味しそうだ。 そしてご飯にはでんぷでハート模様。 「そして恥ずかしいな……」 「えへへ」 つかさはニコニコしながらこちらを見ている。 食べてと言う意思表示なのだろう。 箸を取り外し、定番中の定番、卵焼きを掴み、口へ運び、咀嚼し、飲み込んだ。 ……うまい。 「……男くん、どう、かな?」 「うまいよ! つかさ!」 「そう? よかったぁ」 笑顔。 いつも通りの笑顔。なのに。 何か、違う。 ☆――― 「ねえかがみん。今日はつかさどしたの?」 「男と二人でお昼だって」 「えー、つかさ、いきなりどうしたのさ」 「さあ、ね……」 もう、私にはつかさがよく解らなくなっていた。 「あ、そだそだかがみん」 「なによ?」 「男ってネットやってる?」 「多分ね」 家に、パソコンはあったし。 「そっかー。ふふふ~ん」 何なんだ。いったい。 ☆――― 「ふー、うまかったー。 つかさ、ご馳走様」 「えへへ、うん。お松野様ー」 もしかしてお粗末様と言いたいのだろうか。 「さて……時間が大分余ってるな……つかさ、どうする?」 「え? 話してようよー」 「え、つかさはそれで良いのか? かがみやこなたのところに―――」 「いいよ」 ブツリ、と。 言い切った。 「…………」 「私さ、最近面白い番組見つけたんだー」 俺の沈黙をものともせず、つかさは話始めた。 ――― 昼休みはそのまま二人で過ごした。 チャイムが鳴り、つかさは名残惜しそうに、 『また、あとでね』 そう言っていた。 そして今は放課後。 友に別れを告げ、教室を出た。すると、 「男ー」 誰かに呼ばれた。 ……こなただ。 「こなたじゃないか。どうした」 俺の名前を呼びながら駆けてきたこなた。 ……一人、か。 「ふう、男よ」 「な、なんだよ」 「ネトゲをや ら な い か」 「は?」 「……非オタか。 まあいいや。ネトゲ、解る?」 いいえ、微オタです。 「ネットゲームのことか?」 「そそ、興味ない~?」 「興味は……あるが。そんなに金無いし」 「今無料でいいのがあるんだよー。 どう? やらない?」 どうしよう……。 ……まあ、やってみてもいいか。 「や―――「男くんっっ!」 声が響いた。 よく知った声が。 「……つかさ」 走ってきたつかさは、昼休みと同じように、俺の袖を掴み、何処かへ引いていく。 最後に、唖然としたこなたが見えた。 ――― 走ってる。 袖を引かれ、走ってる。 前にはつかさ。顔は見えない。 「はあっ、はあっ……つかさ!」 ピタリ、と立ち止まった。 急だったので、バランスを取りながら、つかさを見る。 「つかさ……?」 つかさの顔は、俺の知らない顔だった。 恐怖と不安に彩られた顔。 目は虚ろで、考えてることがわからない。 いつも通りのつかさじゃ、ない。 「つかさ! どうしたんだよ!」 肩を掴み、揺さぶる。 「男……くん」 「つかさっ!」 「あ……私……何を……?」 「何を……って、つかさ?」 「私……こなちゃんが……男くんと話してるのを、見て」 「つかさ……?」 「……こなちゃんから、男くんを―――」 そう言ったきり、つかさは黙ってしまった。 ―――一体つかさはどうしたんだろう。 つかさはその後、一人で帰ると言って、走り去って行ってしまった。 ……何故か、後を追っちゃいけない気がした。 ☆――― まず、男くんが見えた。 次に、彼と話しているこなちゃんが見えた。 ―――私の中の何かが、弾けた。 気付いたら走っていた。 男くんを掴んで。 ――― 「はあっ、はあっ……つかさっ!」 男くんの私を呼ぶ声。私は半ば反射的に止まった。 思い切り走ったせいか、頭は真っ白で。自分が今どんな顔をしているのかさえ解らなかった。 「つかさ……?」 男くんの声。 心配ソウナ、男くんの声。 「つかさ! どうしたんだよ!」 カラダが前後に揺すられる。顔を上ゲルト、オトコクンが、いた。 「男……くん」 「つかさっ」 ああ……男くんだ。私の大好きな、男くんだ。 「あ……私……何を……?」 何をしていたんだろう。どうして、こんな所に二人でいるんだろう……? 「何を……って、つかさ?」 ええと、確か、教室に男くんを迎えに行こうとして……、 「私……こなちゃんが、男くんと話してるのを、見て」 「つかさ……?」 「こなちゃんから、男くんを―――」 ―――トリカエソウト、シタ。 ワタシノ、オトコクンヲ――― NEXT☆11【分岐】